THE ONSEN CATALOGUE プロジェクト #7
こんにちは、大迫です。今回は、「NPO法人 別府八湯温泉道 名人会」の南さんから今回のクラウドファンディングの特別リターンに設定されている別府の共同浴場「寿温泉」、その魅力と現状について寄稿をいただきました。ご覧ください。
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〜 僕らが紹介したい日本の温泉文化 〜
知られざる名湯・秘湯の魅力を国内外に伝えたい
"最高の温泉カタログ" 制作プロジェクト
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THE ONSEN CATALOGUE プロジェクト
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寿温泉 ~百年をつなぐ、地元の名泉~
寿温泉の歴史
泉都別府を南北に貫く国道10号(小倉街道)から、山側へ一丁。現在、大型商業施設となっている楠港跡地の国道を挟んで向かい側、楠町に「寿温泉」があります。
開湯は明治32年(1899年)。温泉が床屋の床下から湧き出したことから「床下湯」などと呼ばれた浴場が、大正期に町有となり、現在の名称に改められました。
開かれた当初は、湧き出す湯が婦人病全般に効くと言われたため、まず女性専用の浴場として始まり、町有になった後に男性の浴室が設けられたという、少し変わった経歴を持つお風呂でもあります。
現在の湯小屋は、大正13年(1924年)の新築に、時代時代で手を加えたものですが、当時の絵葉書からは、相当に洒脱な建築であったことがよく分かります。そして、市内で現在も営業している浴場の中でも、駅前高等温泉(同年に新築)とならんで歴史ある建物、それが寿温泉なのです。
明治から昭和の終わりにかけ、現在の楠町周辺には、霊潮泉、柳温泉、楠温泉など多くの浴場が立ち並び、相当の賑わいを誇っていましたが、時代の流れとともに一湯、また一湯と失われ、現在はこの「寿温泉」が残るのみとなりました。
現在の寿温泉
現在の寿温泉は、二階に公民館を備える典型的な「別府のジモセン」。公民館では、月に一回詩吟の集まりが催されるなど、楠町の皆さんの憩いの場所となっています。
現在の玄関の横には大きな芭蕉の木。その影に隠れるように、寿温泉の泉源があります。
現在は使われていない玄関の跡や、壁面のアーチ型窓など、この角度から見ると往時の面影が感じられます。ちなみに玄関跡にいつ頃か増設された部分には、その昔、一杯飲み屋さんが入っていたのだとか。
建屋を残し、何度か大掛かりな改修が行われた寿温泉ですが、始まりが女性専用のお風呂だったという背景から、現在でも女性浴場の方が広く、女性上位であることに変わりありません。この様に、時代時代で少しずつその姿を変えながら、寿温泉は楠町の皆さんの手によって大切に守られてきたのです。
寿温泉の一日
寿温泉の朝は、別府の他の共同浴場に比べ、少しゆっくり始まります。
午前10時。朝一番の仕事を終え、今日のお湯張り当番、正敏さんがやってきました。
浴場の湯栓を確かめ、正敏さんが番台に備えられたスイッチを入れると、ポンプが軽い音を立てながら泉源から緩やかに寿の湯を引き上げはじめます。「ぽんぽんぽんぽん・・・」寿温泉に限らず、街の至るところから聞こえる汲み上げポンプの音は、いつもと変わらぬ別府の日常です。
それから2時間ほどかけて、男女の浴槽に湯が満たされます。汲み上がる源泉の温度は51度。源泉かけ流しの湯を提供するため、13時の営業開始までゆっくり時間を掛け、42度前後の適温まで自らの熱を下げていくのです。
その間にも、足ふきマットやタオルの洗濯、そして洗濯物干しと、開始までの準備が進んでいきます。浴槽からお湯が溢れ始めたのを確認した後、午前中の作業は終了となりました。
そして、午後12時半過ぎ。本日最初の番台・達也さんが到着しました。お湯張りの当番とともに、番台も有志による持ち回りで担当しますが、その経歴は会社員から地元の学生まで男女を問わず様々。みんな「大切な地元のお風呂を盛り立てたい」、その一心で、お湯に親しむ日常を守っているのです。
営業が始まるまでの時間、番台は、外回りと玄関、トイレや浴場に続く通路、そして番台の中を掃除し、お客さんをお迎えする準備を行います。13時、営業開始の時間です。22時の終了まで、今日も長い一日が始まります。
ちなみに、寿温泉の利用料は現金で100円。2,000円で30枚綴りの回数券を購入すれば、1回あたり70円弱で利用出来るのも、別府のジモセンならではの魅力ですね。
しばらくして、馴染みのお客さんが一人、いつもの時間にやって来ました。「こんにちは、いらっしゃいませ」と、達也さん。「今日はぬきーねぇ(暖かいね)」と、お客さん。番台から、「お写真いいですか?」とお願いしたところ、素敵な笑顔で快諾してくれました。親子ほど歳の離れた番台とお客さん。その何気ない会話の中に、都会で失われつつある地域の関係性を感じることが出来るのも、別府のジモセンの魅力のひとつと言えるでしょう。
18時。穏やかな時間が流れていた寿温泉にも、そろそろお客さんが増え始める頃です。次に別の用向きを控えた達也さんは、以降の番台をひなたさんと交代します。
ひなたさんはAPU(立命館アジア太平洋大学)に通う大学生。寿温泉の最年少番台でもあります。ひなたさんはこの日、留学生の友人を伴ってやってきました。友人は地元のお客さんと一緒に夕方のお風呂を楽しみ、ひなたさんは番台として、いつものお客さんを笑顔でお迎えする。留学生が多く、学生の街でもある別府ならではの光景です。
時間は過ぎて22時。辺りはすっかり夜の帳に覆われ、寿温泉にも終わりの時が訪れました。
ひなたさんがその日最後のお客さんを見送りし、玄関の明かりを落とす頃、今日の清掃当番・ゆうき君がやってきました。彼もまた、APUの学生さんです。清掃は、男女の浴場をあわせ、1時間程をかけて、ゆうき君が一人で行います。それ程広くない浴場とはいえ、湯気がもうもうと立ち込める中での掃除はかなりの重労働。ゆうき君は、黙々と、ただひたすらに掃除に向き合うのです。
まずは男湯。浴場の床をデッキブラシで丁寧に擦り上げ、続けて側溝を清掃します。水道代の節約のため、最初のお掃除は温泉を使って行い、最後に水道水で洗い流すのです。湯栓を抜き、残ったお湯を流し終えると、次は浴槽の清掃です。たわしを手に、壁面から床の順で丁寧に湯垢を落とし、綺麗に流していきます。最後に湯口の清掃を行い、男湯は終了。そのまま、女湯へと作業は移ります。
23時。戸締まりと消灯で、寿温泉の一日が終了しました。この様に、「お湯に親しむ日常」は、日々、多くの人達の手によって、守り育てられているのです。明日もまた、新しいお客さんをお迎えするために。
寿温泉のこれから
昨年2016年末、寿温泉は廃業の危機に瀕していました。
直接の原因は、番台の引退と、清掃の人手不足が重なったことがきっかけでした。その後しばらく、自治会の皆さんと地元の有志が交代で番台と清掃を行い、日々のお風呂を守ってこられたのですが、それも限界に近いところまで来ていたのです。
地域住民の高齢化が進んだことから、利用者が自然と減り、収益の悪化につながっていたこと、その結果、番台や清掃に十分な手当が出せなくなり、請け負う人がいなくなったこと、さらに自治会の皆さんの高齢化による負担増という状況も重なり、開湯から百年以上の歴史をつなぐこの温泉も、まさに風前の灯火という状況にあったのです。
また、地域においては、昨春の九州北部地震で湯小屋の取り壊しを余儀なくされた「梅園温泉」や、同様に経営の問題で閉湯に至った「住吉温泉」など、近隣の共同浴場に廃業が続いており、長く別府の街に根付いてきた「温泉による共同浴場文化」は、このまま衰退の一途をたどるかにみえました。
この窮状を聞き、地域のお風呂を守り育てるために地元の皆さんと手を携えたのが、「別府八湯温泉道名人会」(以下名人会)の有志たち。別府を中心に行われる温泉めぐりのスタンプラリー「別府八湯温泉道」の名人位取得者で構成されたNPO法人で、全国に270名以上の会員を誇る団体です(写真は左から、会員の南、佐藤理事長、八木事務局長)。
2017年1月から自治会の委託を受け、名人会で3月末まで業務を請け負いながら管理のノウハウを蓄積し、この4月からは自治会とのやり取りを蜜にしつつ、名人会ですべての管理業務を行うこととなりました。名人会による業務開始以降は、ボランティアによる番台が毎日常駐し、独りでご利用になる高齢の利用者さんの見守りにも貢献しています。
また、中学生以下(小学生まで)のお子さんを無料とすることで、近隣の若い世代が積極的に利用出来るように配慮すること、APUの学生さんなど若い世代に番台へ座ってもらい、地域の皆さんとの世代間交流につなげてもらうことなど、少しずつではありますが、別府の共同浴場にも新しい風が吹き始めているのではないか、と感じます。
これからも、地域の皆さんから寄せられる様々な要望に耳を傾け、日々のお風呂をより使いやすくすることのみならず、旅行者などの新しい利用者を獲得しながら、歴史ある地元のお風呂に新しい役割を与えてやることを心に留め置き、別府の共同浴場文化を守り育てるため、精一杯力を尽くしていきたい。名人会の有志、そして地元の皆さん、みんなの願いがそこにあります。
文:NPO法人 別府八湯温泉道 名人会 南達也
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